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【眼鏡士が解説】眼鏡の「+」と「−」の正体とは?意外と知らない「マイナスの老眼鏡」の真実
皆さま、こんにちは。学芸大学の眼鏡専門店、ライブラの田中です。
眼鏡の処方箋や、コンタクトレンズのパッケージに書かれた「−3.00」や「+1.50」といった数字。皆さまも一度は目にされたことがあるのではないでしょうか。
「マイナスだから目が悪い?」「プラスだから老眼?」
そんなふうに、なんとなくのイメージで捉えている方も多いかもしれません。しかし、この「プラス」と「マイナス」の符号には、あなたの目の状態と、快適に見るための光のコントロール方法が隠されています。
今回は、意外と知られていない「度数のプラスとマイナスの正体」について、そして皆さまが驚かれることの多い**「老眼鏡なのにマイナスのレンズ?」**という不思議な現象について、眼鏡士の視点から分かりやすく丁寧に解説させていただきます。
【眼鏡士が解説】眼鏡の「+」と「−」の正体とは?意外と知らない「マイナスの老眼鏡」の真実
🔍 1. 光の交通整理:マイナスは「広げる」、プラスは「集める」
まず、眼鏡のレンズが光に対してどのような役割を果たしているのか、その基本からお話ししましょう。レンズには大きく分けて「凹(おう)レンズ」と「凸(とつ)レンズ」の二つがあります。
マイナス(−)レンズの役割:近視の方へ
マイナスの符号がつくのは、中心が薄く、縁が厚い「凹レンズ」です。
近視の目は、光を曲げる力が強すぎる、あるいは眼球の奥行きが長すぎるため、網膜(目の奥のスクリーン)よりも手前でピントが合ってしまっている状態です。
そこで、マイナスのレンズを使って入ってきた光を少し**「広げる」**ことで、ピントの位置を奥へと押しやり、網膜ぴったりに合わせてあげるのです。
プラス(+)レンズの役割:遠視・老視の方へ
プラスの符号がつくのは、中心が厚く、縁が薄い「凸レンズ(虫眼鏡のような形)」です。
遠視の目は、逆に光を曲げる力が弱い、あるいは眼球の奥行きが短いため、ピントが網膜の後ろ側へ突き抜けてしまっている状態です。
そこで、プラスのレンズを使って光をギュッと**「集める」**ことで、ピントの位置を手前に引き寄せ、網膜に合わせてあげます。
つまり、プラスとマイナスは、ピントのズレを「手前に戻すか、奥へ送るか」という方向を示しているのです。
🔢 2. 「老眼=プラス」とは限らない?計算式で解くレンズの秘密
さて、ここからが今回の重要なポイントです。
一般的に「老眼鏡(手元用眼鏡)=プラスのレンズ」と思われがちですが、実は**「マイナスのレンズを使った老眼鏡」**も世の中にはたくさん存在します。
これには、少しだけ「度数の足し算」の話が必要になります。
老視(老眼)とは、目のピント調節力が衰え、近くを見るために必要なパワーが不足する現象です。この不足分を補うための力を**「加入度数(ADD)」と呼び、これは必ず「プラス(+)の力」**で表されます。
眼鏡の度数は、以下の計算式で決まります。
【遠くを見る度数】 + 【老視の加入度数(+)】 = 【手元を見る度数(老眼鏡)】
パターンA:目が良い人(正視)や遠視の人の場合
遠くを見るのに度数が不要(0.00)、あるいは元々プラス(+1.00)の人が、老眼(+2.00)になった場合。
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0.00 + (+2.00) = +2.00
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(+1.00) + (+2.00) = +3.00
この場合は、皆さまのイメージ通り、老眼鏡は**「プラスレンズ」**になります。
パターンB:近視の人の場合(ここが重要!)
では、近視で普段「−4.00」の眼鏡を掛けている人が、老眼(+2.00)になった場合はどうなるでしょうか?
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(-4.00) + (+2.00) = −2.00
計算の結果は**「−2.00」。つまり、マイナスです。
この方にとっての老眼鏡(手元用眼鏡)は、「普段より弱いマイナスのレンズ」**ということになります。
「老眼鏡を作ったのに、レンズを見たらマイナス(凹レンズ)だった。間違っているのでは?」と不安になるお客様もいらっしゃいますが、これは光学的に全く正しいことなのです。近視の方にとっての老眼鏡とは、**「近視の度数を弱めて、近くにピントを合わせやすくした眼鏡」**と言い換えることができます。
👓 3. 「近視の人は老眼にならない」という誤解の正体
よく「近視の人は老眼にならない」という噂を耳にしませんか?
結論から申し上げますと、それは誤解です。老視は水晶体の老化現象ですので、誰にでも平等に訪れます。
しかし、近視の方は「老眼の症状を感じにくい」、あるいは「眼鏡を外せば近くが見える」という特殊な能力を持っています。
先ほどの計算式を思い出してください。近視(−4.00)の方が、老眼(+2.00)の影響を受けても、裸眼の状態はマイナス(近視)のままです。近視とは元々「近くにピントが合っている目」のことですから、眼鏡を外してしまえば、老眼のプラスの力を借りなくても、自前の近視の力で手元が見えてしまうのです。
これが、「近視の人は老眼にならない(と感じる)」理由です。
ただし、いちいち眼鏡を外すのが面倒だったり、外すと顔を極端に近づけないと見えなかったりする場合は、やはり「弱めのマイナスレンズ(老眼鏡)」や「遠近両用レンズ」が必要になります。
🛠️ 4. あなたの「最適解」を見つけるために。眼鏡士の役割
ここまでお話しした通り、眼鏡の度数は単純な「視力」だけでなく、その人の「元の目の状態」と「年齢による変化」の組み合わせで決まります。
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遠くも近くもしっかり見たい方: 遠近両用(マイナスとプラスの要素を一枚に統合)
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デスクワークで手元を広く見たい近視の方: 弱めのマイナスレンズ(デスク用単焦点)
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遠視で目が疲れやすい方: しっかりとしたプラスレンズ
このように、正解は一つではありません。
「マイナスだから目が悪い」「プラスだから年を取った」と悲観する必要は全くありません。それらは単に、光をコントロールするための「調整ダイヤル」の向きに過ぎないのです。
🤝 最後に:数字にとらわれず、「快適さ」を選びましょう
ご自身の処方箋を見て、「マイナスが強いな」とか「プラスになってしまった」と数字の大小を気にされるお気持ち、よく分かります。
ですが、私たち眼鏡士が最も大切にしているのは、数字そのものではなく、その度数を通してお客様が**「どれだけ楽に、心地よく生活できるか」**という点です。
「老眼鏡を作りたいけれど、マイナスのレンズになるのが不思議で……」
そんな疑問をお持ちの近視の方も、ぜひ安心してご相談ください。学芸大学のライブラでは、あなたの目のメカニズムをしっかり紐解き、計算に基づいた「最も快適な一本」をご提案いたします。
正しい知識と適切な眼鏡で、クリアで疲れ知らずの毎日を手に入れましょう。
【次のステップ】
近視の方が老眼鏡を作る際、「専用の老眼鏡(単焦点)」にするか、「中近両用」および「遠近両用」にするか迷われるケースが多いです。それぞれのメリット・デメリットを比較した記事はこちら!
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