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✨ 5,000円と30,000円、眼鏡の価格差に隠された「本質」と「納得の理由」

みなさま、こんにちは。東横線沿い目黒区学芸大学駅の眼鏡専門店、ライブラの田中です。

眼鏡店へ足を運んだ際、皆さまが必ず抱く疑問があります。「あちらの棚の5,000円の眼鏡と、こちらの30,000円の眼鏡。見た目は似ているのに、一体何が違うの?」という問いです。

「ブランド代でしょう?」と仰る方も多いのですが、実はその価格差には、素材、製造工程、そして一人の人間が人生をかけて生み出した「知恵」の対価が含まれています。今回は、プロの視点からその内幕を丁寧にお話しさせていただきます。

 


🎨 1. デザイナーの「執念」を形にするコスト:0.1mmの線に宿る魔法

30,000円クラスの眼鏡、特に一流の眼鏡デザイナーが手掛ける作品には、完成までに膨大な「時間」が投じられています。

彼らは一本のフレームを形にするために、何年もの歳月をかけてデッサンを繰り返し、試作を重ねます。それは単に「流行の形」を作るのではなく、「日本人の骨格をいかに美しく見せるか」「耳や鼻への負担をどう分散させるか」「時流のデザインと強度や使いやすさの融合」という難問に対する、彼らなりの回答です。

この「温められたデザイン」を形にするには、専用の金型を一から設計しなければなりません。安価な眼鏡が既存の型を流用し、効率よく大量生産されるのに対し、デザイナーズフレームは、その一瞬の曲線を表現するためだけに、数百万もの投資をして高精度な金型を特注します。

皆さまが30,000円の眼鏡を掛けたときに感じる「なぜか顔が引き締まって見える」「品格が上がる」という感覚。それは、デザイナーが何年もかけて磨き上げた、0.1mm単位の線のこだわりがもたらす魔法なのです。

 


🔩 2. チタンの「多様性」を知る:再生チタンか、それとも魔法の合金か

次に、素材のお話です。今や眼鏡の代名詞となった「チタン」ですが、実はその質は一様ではありません。

  • 30,000円クラスのチタン(ピュアチタンとβチタン):

    高品質な眼鏡には、不純物が極めて少ない「ピュアチタン(純チタン)」や、高度な技術で弾力性を持たせた「β(ベータ)チタン」が使われます。これらは非常に硬く、加工が難しい素材ですが、医療用器具に使われるほど肌に優しく、驚くほど軽量で、一生モノと言えるほどの耐久性を誇ります。

また、各国産メーカーは競って何十年もの月日をかけてチタン製品開発を行い、様々なチタン製品を生み出していきます。

 

1. 純チタン(ピュアチタン)

眼鏡フレームで最も一般的に使用される素材です。

  • 呼び名: 純チタン、CPチタン(Commercially Pure Titanium)

  • 特徴: 不純物が極めて少ないチタン。非常に軽く、サビに強く、金属アレルギーをほとんど起こしません。

  • 眼鏡としてのメリット: 溶接(ロウ付け)がしやすく、頑丈なため、長期間の使用に適しています。主にフレームの前枠(リム)やブリッジに使用されます。

  • デメリット: 弾力性が少ないため、テンプル(つる)に使用すると少し硬い掛け心地になることがあります。

 

2. βチタン(ベータチタン)

チタンにバナジウムやアルミニウムなどを配合した合金です。

  • 呼び名: βチタン(ベータチタン)

  • 特徴: 純チタンよりも「高い弾力性」「強度」を持っています。

  • 眼鏡としてのメリット: バネのようにしなるため、掛け外しによる型崩れを防ぎ、顔を優しく包み込むようなソフトな掛け心地を実現します。主にテンプルに使用されます。

  • デメリット: 加工が難しく、純チタンに比べて価格が高くなる傾向があります。

 

3. ゴムメタル(GUMMETAL)

トヨタグループの中央研究所で開発された、新機軸のチタン合金です。

  • 呼び名: ゴムメタル

  • 特徴: ゴムのような弾力性と、加工のしやすさを両立させた「不思議な金属」です。

  • 眼鏡としてのメリット: βチタンよりもさらにしなやかで、強い力が加わっても元の形に正確に戻る性質があります。高級な国産フレーム(鯖江産など)によく採用されます。

 

4. 形状記憶チタン合金(NT合金)

ニッケルとチタンをほぼ同等に配合した合金です。

  • 呼び名: 形状記憶合金、NT合金

  • 特徴: 曲げても一瞬で元の形に戻る超弾性を持っています。

  • 眼鏡としてのメリット: 圧倒的に壊れにくく、子供用眼鏡や、頻繁に眼鏡をぶつけたり寝落ちしてしまったりする方に最適です。

  • 注意点: ニッケルが含まれるため、重度の金属アレルギーの方は注意が必要です。

 

5. エクセレンスチタン(Excellence Titan)

日本の大手メーカー(シャルマン社)が東北大学と共同開発した、眼鏡専用のチタン合金です。

  • 呼び名: エクセレンスチタン

  • 特徴: 「しなやかさ」と「形状記憶性」を極限まで高めた素材です。

  • 眼鏡としてのメリット: 非常に繊細なデザインが可能でありながら、包み込まれるような極上の掛け心地が長く続きます。高級ブランド「ラインアート」などで有名です。


    このように、長く日本人に愛用されるデザインと強度、使いやすさを追求した結果、もたらされたチタン製造の精密な技術が、国産眼鏡には培われていると言えます。

 

  • 5,000円クラスのチタン(再生チタン・合金):

    一方で、安価なフレームでは、コストを抑えるために不純物の混じった「再生チタン」や、加工がしやすい(=柔らかい)安価なチタン合金が使われることがあります。これらは一見チタンですが、粘り強さがなく、私たち眼鏡士が調整(フィッティング)しようと力を加えると、パキッと折れてしまう脆さを持っています。

素材の違いは、そのまま「掛け心地の持続性」と「修理ができるかどうか」の差に直結します。

 


🌏 3. 産地「鯖江」が守り抜く価値:200以上の工程が生む信頼感

三つ目の違いは「産地」です。30,000円クラスの眼鏡の多くは、世界最高峰の技術を誇る「福井県鯖江市」で作られています。

鯖江の眼鏡作りは、分業制です。一組の眼鏡が完成するまでに、プレスのプロ、ロウ付け(溶接)のプロ、磨きのプロ……と、200以上の工程をそれぞれの職人がバトンを繋ぎながら仕上げていきます。

例えば、金属の角を落として滑らかにする「磨き」の工程。安価な眼鏡が機械の中に放り込まれて短時間で処理されるのに対し、鯖江の職人は、指先の感覚を頼りに、何日もかけて金属の表面を鏡のように磨き上げます。

この丁寧な下地処理があるからこそ、表面のメッキや塗装が剥がれにくく、何年経っても輝きを失わない眼鏡が生まれるのです。

 


🛠️ 4. 「調整できる」という安心:眼鏡士がこだわる「道具」としての質

最後に、現場で眼鏡を仕立てる私たちが最も感じる違いは、「調整の受け皿(遊び)」の有無です。

30,000円クラスの眼鏡は、プロがフィッティングすることを前提に設計されています。お客様一人ひとりの耳の高さや鼻の形に合わせて、金属をミリ単位で曲げても耐えられる構造になっているのです。いわば、「仕立てるための眼鏡」です。

一方、5,000円クラスは「そのまま売ること」に特化しており、無理に調整しようとすると強度が保てない場合があります。

毎日、顔の真ん中に乗せて過ごすものですから、わずかなズレが大きなストレスや頭痛に繋がります。一級眼鏡士がその腕を最大限に振るい、お客様に「掛けていることを忘れる視界」を提供できるのは、やはり素材と造りがしっかりとした高品質なフレームなのです。

 


🤝 最後に:眼鏡は「自分への投資」です

5,000円の眼鏡が決して悪いわけではありません。ファッションとして楽しむなら素晴らしい選択肢です。

しかし、もしあなたが「快適な視界を一生の友にしたい」とお考えなら、その30,000円という価格は、決して高いものではありません。

それは、デザイナーの情熱、職人の技術、そして最高級の素材が合わさった「安心」への投資です。

学芸大学のライブラでは、これら選び抜かれたフレームを、さらに私たちが丁寧にフィッティングしてお渡しします。ぜひ一度、店頭で「本物」が放つ輝きと、肌に吸い付くような掛け心地を体感してみてください。